コーチングをする時、コーチは、コーチングスキルとは別に、セッションの中でちょっとしたツールを使うことがあります。
診断やアセスメント、フレームワークやワークシート、論理やモデルなどなど。
そういったものを使うことで、コーチングに新たな視点や情報を持ち込むことができるようになります。
そして、こういったツールには、自分のことを知る上で有益なものが多くあります。
この記事では、そんなコーチの道具箱より「経験学習サイクル」というモデルをご紹介させていただきます。
なぜ経験学習なのか?
経験学習とは、文字通り「自らの経験から学ぶ」ことです。
真正面から「経験から学ぶことが大切です」と言われると、「今更何をそんな当たり前のことを…」という気分になるかもしれません。
それぐらい、私たちは個々に異なる背景を持ち、異なる経験をしていて、そこから自分に最適な学びを得ていくことの必要性を感じているのだと思います。
ここで言う「学習」や「学び」は、かなり広い意味のものです。
いわゆるお勉強や、知識やスキルを得たり能力を向上させたりすることはもちろん、「自分自身がどんな人間か」を知り、更新していくことも含まれます。
私たちは、自らの経験に自分で意味づけをして、自分自身を定義しているからです。
日々の暮らしや物事に取り組む際に、何かを達成することは素晴らしいことですが、それだけが全てではありません。
そのプロセスで起きる、新しい何かを知ったり、学んだり、できるようになったりという変化や成長には、この先の人生に活きる価値があると、私は思っています。
そんな自分の変化や成長に意識を向けるために、この経験学習のプロセスを知ることは有効です。
経験学習サイクルとは?
経験学習サイクルとは、コルブによって提示された経験から学ぶプロセスのモデルです。
このモデルのポイントは、学習は経験の把握と変換の組み合わせでできているという捉え方です。
縦の軸が、経験の把握です。これには、具体的、直接的に感じ取ることと、考えることでどんなことにも適用できる抽象的概念にすることの2つの方法があります。
横の軸は、経験の変換です。経験を学習に変換するためには、試してみることと、観察して気づくことの2つの方法があります。
この経験の把握と変換の4つのステップからできているのが、経験学習サイクルです。
この経験学習サイクルでは、経験からの学びは、①経験(具体的な経験)→②内省(内省的観察)→③概念化(抽象的概念化)→④実験(積極的実験)でできています。
①まず具体的な経験があります。ここで大切なのはFeeling。今ここで起きている感覚や感情を味わいます。
②次に内省的観察。その経験を振り返り、経験の中で起きていたことを観察します。ここでのポイントは、発散=広げること。様々な視点から振り返ることで、気づきの種類も増えていきます。
③抽象的概念化では、その経験の意味を考えます。このステップを「教訓を引き出す」と表現している本もあります。具体的な経験を、今後も活かせる概念やアイデアに取り込んでいきます。
④次は積極的実験です。ここまでで得たことを新たな状況に適応させるために「じゃあどうする?」を実行に移します。①具体的な経験との違いは、予め決めた上で試してみようとする(実験)という点です。
そして、④で起こした行動は新たな経験を生み、また新たな経験学習サイクルが始まります。
このサイクルを回すことで、人は経験から学んでいます。
それぞれの学習スタイル
繰り返しになりますが、この経験学習サイクルは、経験から学ぶプロセスのモデルです。
モデルというのは、複雑な現象を大きな枠組みで理解するための概念図です。
モデルを使うことで、自分の中で起きている複雑なプロセスを整理して、取り扱い可能な状態にすることができます。
なので、取り扱い可能な自分の情報を増やす=自分を知るためのひとつの視点として、この経験学習サイクルというモデルを使ってみることをオススメします。
コーチングをしていると、経験学習サイクルのどのステップを好み、どのステップを避けがちなのか、人によって傾向があることに気づきます。
これが、その人の学び方のパターン=学習スタイルです。
そして、その学習スタイルは、状況や取り組む内容などによって変わります。
まずは、この経験学習サイクルに照らし合わせて、様々なシチュエーションで自分がどのステップにいるのかを振り返ってみると良いかもしれません。
例えば、私の場合、基本的には②内省的観察が大好きです。
昔から、十分に思い巡らしたり、じっくり考えたりする時間が足りないと、イライラしてしまいます。
最近は、内省した内容はメモに書き留めています。複数のメモの間に意味やつながりを見出して③抽象的概念化しながら思考を深めている時は、とてもワクワクしています。
コーチングをしている時は、①具体的経験のステップにいます。今ここでクライアントとつながること、そこで起きていることを感じ取ることに喜びを感じます。
一方で、何かを計画的にやり遂げるようなことは、どうしても必要な場合以外は好んでやりません。
このように、4つのステップという切り口を持つことで、自分の学び方の傾向を観察しやすくなります。
経験学習サイクルとコーチング
時々、これからコーチングを受け始める方から、「どうすれば、コーチングをうまく活用することができますか?」と質問されることがあります。
もちろん、コーチングの活用法に決まりはありませんし、それぞれのニーズに個別に対応できることが一対一のコーチングの魅力だと思います。
でも、慣れないうちは手探り状態ですよね。
何か参考になる指針があると、試してみやすいかもしれません。
そういう時に、この経験学習サイクルをご紹介することがあります。
自分が避けがちなステップにコーチングを活用するのは、オススメの方法のひとつです。
自分ひとりでは普段やらないこと・やれないことに取り組むと、当然、今までとは違うことが起きるので、変化や成長を感じやすいものですね。
私の場合、「こうやってみよう」と予め決めて取り組むステップを避けがちです。
絞り込むことが苦手なんです。
例えば、「コーチング力を上げる」という目標がある場合は、自身のメンターコーチにフィードバックをもらいながら、課題とそのために取り組むことを一緒に決めて進めています。
そうすることで「これができた」「あれができた」が明確になるので、成長実感を得やすいように思います。
もうひとつのオススメは、自分の好きなステップにコーチングを使うことです。
内省大好きな私は、コーチと何かについて語り合う時間が大好きです。
視点を増やし、もっと広く、深く考えて、より多くの気づきを得る。
そうすると、ふと「あ、こういうことだ」というアイデアが降りてくることがあるんです。
私の新しい行動は、そういうアイデアから生まれるものが大半です。
そうやって生まれた新しい行動から、また新しい経験と学習が生まれます。
このように使い方は様々ですが、経験学習サイクルという視点が増えることで、コーチングを始めやすくなったらいいなと思います。
経験学習についてもっと知りたいという方は、書籍(最強の経験学習)やレポート(THE KOLB LEARNING STYLE INVENTORY 4.0・英文)を読んでみてくださいね。
経験から良い学びを得るために
とある研究によると、成人における学びの70%は自身の経験から、20%は他者の観察やアドバイスから、10%は本や研修から得ているそうです。
一方で、学習性無力感という言葉もあります。
これは、過去の経験から「こんなことをしても無駄」と学習してしまっている状態です。
やる前から諦めてしまうパターンですね。硬直化した組織でよく見られます。
私達は、良くも悪くも経験から学んでしまうものなのですね。
経験から良い学びを得るために大切なのは、「自分はこの経験から何を学んでいるのか」に気づくことではないかと思います。
そのためには、その経験や学びのプロセスについて、誰かと話をすることが有効です。
経験から学ぶためのパートナーとして、コーチをつけてみてはいかがでしょうか?
みみをすますラボでは
あなたと わたしが みみをすまし
ふれあい、うつしあい、ひびきあう、
そんなコーチングを提供しています。
お気軽に、まずは体験セッションからお申込みお待ちしています(^^)