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BLOG コーチングといううつわ

コーチが自身の「安心」を手放すこと

前回の「コーチングといううつわ」では、「戦略」という言葉への苦手意識と今後の付き合い方について書きました。
実は、今回も苦手意識シリーズです。

今回は、私自身のもやもやが残っているやり取りを振り返ることで、コーチが自分自身の「安心」を手放すことの重要性について、考えてみたいと思います。

私のもやもや体験

先日、初めてお話させていただいた方との会話の中で、こんなやり取りがありました。

(相手の方)「ほそかわさんも、周りの人たちの自己実現をサポートしたいという思いでコーチングをされているんですか?」

(ほそかわ)「うーん………、もちろん自己実現は大事だと思うんですけど、私は、相手の可能性を一緒に見つけることをやりたくて、コーチングをしている気がします。」

このやり取りに関して、私の中にはもやっとした思いが残っています。

別に、この会話が問題で、後から何かトラブルが起きたってわけじゃないんです。
むしろ、何も起きないようにしていることが良くないなって、反省しているんですね。

もやもやポイントは、「うーん………」と考えていた時に、自分の中で何が起きていたことにあります。

問いかけられた時の私の頭の中を振り返ってみると
実は、「自己実現!?え?何それ?ジコジツゲンをサポートしたい???私が?そうなの?」と、
ちょっとした混乱状態だったのです。

正直な話、私「自己実現」という言葉、いまいちよくわからなくて、ちょっと苦手なのです(-_-;)
漢字の見た目もカクカクしてるし、音の響きも詰まり過ぎてません?
ギラギラしたYouTubeのサムネイルに鎮座していそうなイメージ…(これは偏見)

その、ちょっと苦手意識のある「自己実現」をサポートしたいという思いについて、共感を求められたわけですね。
「ほそかわさんも」とおっしゃっているように、相手の方は、自己実現をサポートするためにコーチングをやりたいという思いをお持ちの方だったのです。

改めて落ち着いて考えてみると、相手の方に確認すればよかったなーと思うんです。
「あなたの言う『自己実現』って、どういうことなんですか?」と。
質問に質問で返すことに抵抗があれば、「大事なことだと思うので、ちゃんと理解して答えたいので確認したいんですけど」と前置きしてもいいかもしれません。
私は、今ここで話されている「自己実現」がどういう意味なのかがわかっていないのだから、まずその点を確認してから考えて答える。
誠実な対応だと思います。
それに、その方にとって「自己実現」とは何か?という話を聞くことができたら、きっとその中に心から共感できるポイントがあると思うんですよね。
使っている言葉が違っても、根っこにある想いには通じるものがあるはずです。
そういうポイントを見つけたら、心からの共感を伝える。
それがいいな、と、今は思います。

でも、実際にその時にした対応は、「自己実現」についてはよくわからないまま尊重の姿勢は見せておいて、一方で自分に嘘は付きたくないから自分の言葉で答えている。
同じものを見ていないというか、少し平行線というか、相手は「そうなんですね」と答えるしかない雰囲気というか、そんな印象があります。
限られた時間の中でつつがなくこの場を収めて会話を進めたがったり、とりあえずの共感を示していい印象を与えたがったり、ひょっとするとわかったふりをしてちょっとカッコつけたがったりしていたのかなーと思います。
相手の影響を受けないように、閉じている姿勢とも言えますね。
気付かぬうちに、私は自分にとっての「安心」を選んでいたのかもしれないなと思います。

「安心」とは何か

コミュニケーションにおける「安心」について考える時、私は社会心理学者の山岸俊男先生の定義を参考にしています。
山岸先生自身もたくさん本を出されてますが、この記事では「手の倫理」「ポストコロナの生命哲学」での伊藤亜紗先生による引用・解説をもとにして書いています。

山岸先生は、社会的不確実性(相手が自分の思いとは違う行動をする可能性や、相手が自分に対してひどい行動を取る可能性があること)を軸に、「安心」とは「そもそもそのような社会的不確実性が存在していないと感じること」と定義しています。
「安心」を得ようとすると、社会的不確実性を生む要素を減らそうとする方向に進みます。
つまり、状況をコントロールすることで、自分にとってのリスクを排除しようとします。

私が、自分にとっての「安心」を選んだと思ったのは、あの会話での自分のふるまいが、自分の想定の範囲内で収まるように状況をコントロールしようとした結果のものだと感じているからです。
「自己実現」という自分にとってよくわからないワードを避けて、会話の流れを自分の手の負えそうな範囲に収めようとしたわけですね。

さらに、山岸先生は、「安心」と対になるものとして「信頼」を挙げています。

「信頼」とは、「社会的不確実性が存在しているにもかかわらず、相手の(自分に対する感情までも含めた意味での)人間性ゆえに、相手が自分に対してひどい行動はとらないだろうと考えること」です。
相手はどういう行動を取るかわからないけれど、大丈夫だろうという方向に賭けること。
それが「信頼」です。
そして、「安心」を求めれば求めるほど相手をコントロールすることになり、その結果「信頼」は失われていきます。

信頼と安全を育む

ICFによるコーチングのコア・コンピテンシーにも、「信頼」は重要な要素として出てきます。
そして、ここで「信頼」は、「安心」ではなく「安全」とともに扱われています。

コンピテンシー4.信頼と安全を育む

定義:クライアントとパートナー関係を築き、クライアントが自由に話せる安全で支援的な環境を創り出している。
相互に尊重し信頼する関係を維持している。

ICFコア・コンピテンシーモデル更新版

この「安全」は、環境を形容しています。
それは、クライアントが自由に話すことを可能にする環境です。
そんな環境を創り出すことが、コーチの役割のひとつです。
そして、相互に信頼する関係も、安全な環境も、育まれるべきものなのです。

では、そのためにどんなことをすればいいのか?
それも、このコンピテンシー4にヒントがあります。

1.クライアントの自己認識、とりまく環境、体験、価値観、信念を含みうる状況で、クライアントへの理解を深めようとしている。
2.クライアントの自己認識、物の捉え方、流儀、言葉遣いに敬意を示し、クライアントにコーチングを合わせている。

クライアントの使う言葉には、その人の価値観が潜んでいます。
そんな、表面にはまだ見えていないものも含めて、その人自身をもっと知ろうとすること。
さらに、そういったその人自身に敬意を示して、クライアントにコーチングを合わせること。
コーチが自分の流儀を押し通そうとすることは、相手に敬意を示せていないことになるのですね。

それから、

6.クライアントとの信頼を築くことができるように、自分の不完全さも見せるなどして、開放性と透明性を示している。

これですね。
わかったふりをしないこと!わかったつもりにならないこと!
何度でも繰り返し肝に銘じておかなきゃいけないことだと思います。

そして、ここに出てきた「開放性と透明性」、私の2022年のテーマのひとつである<ひらく>とも繋がってきます。
コーチ自身が開いていないと、クライアントとの信頼を築くことができないわけです。
じゃあ、コーチが<ひらく>とはどういうことか。
それこそ、クライアント自身を、コーチングを、そして自分自身を信頼することだろうなと思います。
何が起きるかわからないけれど大丈夫だろうという姿勢で臨むことです。
そのためにどうすればいいのか、何が必要なのかは、まだまだ探求が必要なところではありますが、少なくとも自身の「安心」を求めていてはダメみたいですね。
コーチが「安心」な場所に留まろうとしていては、そこは成長のための場所にはならないはずです。

「安心」から「信頼」へ

今回は、コーチが自身の「安心」を手放すことの重要性について書いてきました。
「安心」を手放すことは、相手や状況をコントロールしようしないことであり、相手のその人自身を知り、「信頼」を築くことに繋がっていきます。

念の為申し添えておくと、私はいつでも何でも「安心」じゃなくて「信頼」が大事!ってことじゃないと思っています。
「安心」が求められるシーン、より良く機能するシーンは、世の中に数多く存在しています。
社会的不確実性を排除して物事を前に進めるって、社会活動の中では結構求められるし、必要なことだと思うんです。
世の中から「安心」が全て消えてしまったら、それはカオスで、社会を維持することができなくなってしまいます。

ただ、コーチングや、そこから新たなお互いの「学習と成長」が生まれるような創造的な関係性を築きたいと思ったら、「信頼」を避けて通れないのは間違いありません。
でも、少なくとも私は、あまりに「安心」に物事を進めることに慣れすぎてしまって、それが癖になっているような気がしています。
だからこそ、実は「信頼」するってなかなか難しいことだよねと、私は日々コーチングを実践しながら思っているのです。

こんなエピソードをご紹介しましたが、みみをすますラボでは「自己実現」のためにコーチングを利用したい方も大歓迎です(^^)
そんな方には「あなたの言う『自己実現』ってどういうことですか?」と質問させていただきます!
あなた自身のことを聴かせてください(^^)


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